黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)

(万病回春版 黄連解毒湯・・・黄連解毒湯に柴胡、芍薬各3.0g、連翹1.5gを加える。)

生薬構成

黄ゴン 3.0  山梔子 2.0  黄連 1.5  黄柏 1.5

黄連解毒湯原文

【外台秘要】 (第一巻)

又前軍督護劉車者、得時疾三日己汗解、因飲酒復劇、苦煩悶、乾嘔、口乾、呻吟、錯語不得臥、余思作、此黄連解毒湯方。
一服目明、再服進粥、於此漸差、余以療凡大熱盛、煩嘔呻吟、錯語不得眠、皆佳、傳語諸人、用之亦效、此直解熱毒、除酷熱、
不必飲酒劇者、此湯療五日中神效、忌猪肉、冷水。

【肘後方】 (傷寒時気温病門)

熱極、心下煩悶、狂言鬼ヲ見、起走セント欲ス。煩枢、眠ルヲ得ザルヲ治ス。

【勿誤薬室方函口訣】

此方ハ胸中熱邪ヲ清解スルノ聖剤也。一名倉公ノ火剤トス。其目的ハ梔子し(※1)湯ノ証ニシテ熱勢劇シキ者ニ用ユ。
苦味ニ堪カヌル者ハ泡剤ニシテ與フベシ。
大熱有テ下利洞泄スル者、或さ(※2)病等ノ熱毒深ク洞下スル者ヲ治ス。又狗猫鼠ナドノ毒ヲ解ス。又喜笑不止者ヲ治ス。
是亦心中懊のう(※3)ノナス所ナレバ也。亦可氏ハ此方ノ弊ヲ痛ク論ズレドモ実ハ其妙用ヲ知ラヌ者ナリ。又酒毒ヲ解スルニ妙ナリ。
外薹ノ文ヲ熟読スベシ。又外薹ニ黄柏ヲ去、大黄ヲ加テ大黄湯ト名ク。吉益東洞ハ其方ヲ用シ由、証ニ依テ加減スベシ。

※1 し=豆+支
※2 さ=だく+沙
※3 のう=りっしんベン+農


黄連解毒湯解説

この漢方処方は外台秘要に見られ、「劉車という人が感冒にかかり、汗をかいて治りかけた3日後にお酒を飲んで病気が再発しました。
苦しみ悶え、からえずき、口乾、うなり、うわごと、不眠などの症状が見られました。そこで黄連解毒湯を与えてみたら1服目で目に輝き
が見られ、2服目でお粥が進み、次第に回復しました。その後劉車が患ったような症状の人に与えてみれば皆に効果がありました。」
と記載されています。

勿誤薬室方函口訣には「この処方は胸の煩わしい熱感をとる漢方処方です。本方は梔子シ湯の証であるが、梔子シ湯より煩熱、
身熱が著しい者に用います。
傷寒に感染し高熱と下痢軟便がある者、熱症状が長く軟便が続く者を治します。
犬、猫、鼠に噛まれた場合の毒下しにもなります。また終始笑いが止まらない者を治します。
これらの症状は心中懊ノウに原因があります。また二日酔いにも効果があります。」と記載されています。

黄連解毒湯は外台秘要や勿誤薬室方函口訣に見られるように熱(のぼせ、心煩、心中懊ノウ、煩熱など)特に実熱(実火)を取り除きます。
黄連解毒湯を構成している生薬で
@黄ゴンは上焦の熱が原因の頭痛、のぼせ、肺熱などをを取り除きます。
A黄連は中焦の熱が原因の食欲不振、腹痛、下痢、不安感などを取り除きます。
B黄柏は下焦の熱が原因の下痢、腹痛などを取り除きます。
C山梔子は三焦の熱と肝臓、心包の熱を取り除きます。
このように黄連解毒湯は身体全体に対する消炎作用があり、炎症を抑えることによりのぼせ、
興奮を抑え、胸の不快感、不安感、各臓器の炎症を取り除きます。

黄連解毒湯とよく似た処方で三黄瀉心湯があります。
(参考・・・原典の金匱要略では瀉心湯、傷寒論では大黄黄連瀉心湯と記載されており、後世方では三黄瀉心湯と呼ばれる。)
三黄瀉心湯を構成する生薬は黄連、黄ゴン、大黄で、この三生薬には心窩部に痞える気の鬱滞を下す作用があります。
三黄瀉心湯と黄連解毒湯は処方内容と適応症状はよく似ていますが、違いは黄連解毒湯に山梔子が含まれていることです。

薬徴によれば山梔子は「心煩を主治する也。傍ら発黄を治る。」と書かれており、山梔子を含む黄連解毒湯のほうが三黄瀉心湯より
身体内部(肝、胆など)の熱、身熱、心中懊ノウを取り除く作用が良いです。又、上記で書いたように山梔子には三焦の熱を
取り除く作用もあります。

もし便秘があれば黄連解毒湯に大黄を加えても良いでしょう。
参考・・・漢方医の湯本求真先生は黄連解毒湯から黄柏を取り去り、大黄を加えた処方を「第一黄連解毒湯」と呼び、従来の黄連解毒湯
を「第二黄連解毒湯」と言いました。

さらに万病回春の黄連解毒湯のように柴胡を加えれば身体内部(肝、胆など)の熱を取り除く作用がもっと向上します。

大塚敬節先生は高血圧でのぼせ、不安感、不眠があれば黄連解毒湯加釣藤鉤、ドクダミ又は黄連解毒湯加釣藤鉤、黄耆、ドクダミ
という処方を用います。

大塚敬節先生は「黄連解毒湯を皮膚疾患に用いる場合は荊芥、連翹を加えて用いる。」と自身の書物に書かれています。
皮膚疾患で黄連解毒湯と黄連解毒湯を含む温清飲の適応症状は同じですが、違う点として皮膚に乾燥が無く、潤いがあるかどうかです。
皮膚に潤いがあり、皮膚の熱感、イライラ、かゆみがあれば黄連解毒湯(荊芥、連翹を加える)を用います。
皮膚がカサカサで掻くと皮が剥ける、皮膚に熱感、イライラ、かゆみがあれば温清飲を用います。 


黄連解毒湯適応症

@ 黄連解毒湯は実証で熱、特に実熱を取り除く処方なので虚証で寒のある人には向いていません。

A 主な症状でのぼせ、充血感、精神不安、出血があります。皮膚疾患の場合は皮膚が乾燥してなく熱感、痒みが診られる場合に
良いでしょう。

B のぼせ、充血感、精神不安、出血の症状が本方より軽い場合は三黄瀉心湯を用います。又、便秘があれば本方に大黄を加えます。

C 以上の症状から黄連解毒湯の適応症は
  ・不眠症
  ・不安症、神経症、更年期障害
  ・各種出血、出血予防
  ・高血圧、動悸
  ・皮膚疾患、皮膚掻痒症、しみ
  ・のぼせ、めまい
  ・二日酔い、二日酔い予防
  ・口内炎
  ・胃炎、胃潰瘍
などに適応されます。
 

各生薬の解説

黄連解毒湯を構成している四薬にはすべて消炎作用があります。
主薬の黄連には消炎、解熱、健胃、下痢止め、鎮静、心下の痞えなどを解消する作用があります。
黄ゴンには消炎、解熱、下痢止め、吐き気止めの作用があり、裏熱、心下部の違和感を取り除きます。
黄柏には消炎、利尿、止血、健胃作用があります。
山梔子には消炎、利尿、鎮静、止血作用があります。

黄連と黄ゴンの組み合わせた処方を「瀉心湯」と呼び、「半夏瀉心湯」、「生姜瀉心湯」、「甘草瀉心湯」、「三黄瀉心湯」、
「黄連解毒湯」、「黄連阿膠湯」、「葛根黄連黄ゴン湯」などがあります。
黄連と黄ゴンが組み合わされることにより炎症、充血、不安、心下痞を取り去ります。


参考処方

実証・・・・大柴胡湯、三黄瀉心湯、大黄黄連瀉心湯、烏薬順気散など

中間証・・白虎湯、梔子柏皮湯、梔子シ湯、温清飲など

虚証・・・・附子瀉心湯、黄連阿膠湯など


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