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        越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)
                        (越婢加述附湯 エッピカジュツブトウ)

                        (越婢加苓朮湯 エッピカリョウジュツトウ)

生薬構成
石膏 8.0  麻黄 6.0  朮 4.0  大棗 3.0  甘草 2.0  生姜 1.0
(@越婢加述附湯・・・越婢加朮湯に附子1gを加える。)

(A越婢加半夏湯・・・越婢湯に半夏4gを加える。)

(B越婢苓朮湯・・・・・越婢加朮湯に茯苓4gを加える。)


越婢加述湯原文
【金匱要略】 (水気篇)

裏水者、一身面目黄腫、其脉沈、小便不利、故令病水、假如小便自利、此亡津液、故令渇也、越婢加述湯主之。
裏水、越婢加述湯、甘草麻黄湯亦主之。

【金匱要略】 (中風歴節篇)

越婢加朮湯、治肉極、熱則身體津脱、ソウ(月+奏)理開、汗大泄、歯痢、下焦脚弱。

麻黄六両 石膏半斤 生姜三両 甘草二両 白朮四両 大棗十五枚
上六味、以水六升、先煮麻黄、去上沫、内諸薬、煮取三升、分温三服。悪風加附子一枚,炮。


【勿誤薬室方函口訣】

此方ハ裏水トアレドモ、越婢湯方後ニ風水加朮四両トアレバ、風水ノ語ト知ルベシ。朮ヲ加ルモノハ、湿邪ニ麻黄加朮湯
ヲ與フト同手段ナリ。千金ニ附子ヲ加テ脚弱ヲ治スルモ、風湿ノ邪ノ為ニ脚弱スル者ニテ、即今ノ脚気痿弱ナリ。

越婢加述湯解説
越婢加述湯は金匱要略、類聚方に見られ処方名のとおり越婢湯に朮を加えた漢方処方です。
本方は越婢湯の証(浮腫、口渇、自汗、小便不利、悪風、喘咳)で越婢湯より浮腫、小便不利が著しい場合に用います。

しかし越婢湯との違いは
@ 実証で浮脈ではなく沈脈である事。

A 朮が加わることにより、越婢湯より浮腫、疼痛、小便不利症状の緩和が期待できる事。
(本方で効果が無ければ五苓散の適応と考えられる。)

B 金匱要略に「面目黄腫」、「肉極」、「ソウ(月+奏)理開、汗大泄」「歯痢」などの症状があると記載されており、面目黄腫は
黄色く腫れとあり、浮腫と「汗大泄」つまり分泌物の多い皮膚疾患があると解釈されます。

肉極は諸説色々ありますが皮膚疾患、翼状片、疣、ポリープ、皮膚の変色、皮膚近くの肉の隆起などが肉極に相当すると
思われます。

ソウ(月+奏)理開、汗大泄は
皮膚が開き、汗が大量に出る事を言います。歯痢も皮膚疾患に当たります。

勿誤薬室方函口訣には「千金ニ附子ヲ加テ脚弱ヲ治スル」とあり、千金つまり金匱要略の越婢加述湯に附子を加えれば脚の麻痺、
関節リウマチに効果があります。と記載されています。

本方は麻黄+石膏の処方であります。元々麻黄は解熱、鎮痛、鎮喘咳、発汗、利尿作用があり、石膏と組み合わせる事により
口渇と自汗を抑制します。
又、麻黄が桂枝と組むと、発汗を促します。

@麻黄+石膏=口渇、自汗抑制作用 {処方例} 麻杏甘石湯、越婢湯、麻黄杏仁甘草石膏湯など。

A麻黄+桂枝=発汗促進作用 {処方例} 麻黄湯、葛根湯、大青竜湯、小青竜湯など。

B麻黄+桂枝+石膏=浮腫、喘咳抑制作用 {処方例}小青竜湯加石膏、小青竜湯合麻杏甘石湯など。

越婢加述附湯 (エッピカジュツブトウ)(備急千金要方)

越婢加述湯に附子を加えた処方で浮腫、口渇、自汗、小便不利、関節痛、手足の冷えなどの症状がある場合に服用します。
また、越婢加述附湯にヨクイニンを加えれば、関節リウマチ、湿疹、アトピー性皮膚炎、にもっと良いでしょう。

越婢加苓述湯 (エッピカリョウジュツトウ)

越婢加述湯に茯苓4gを加えた処方で山田光胤先生の書物によれば越婢加述湯の証に動悸、息切れ、胃内停水、腹水症状がある
場合に服用します。本方は分消湯によく似た症状に用いられます。

参考・・・関節痛、神経痛、筋肉痛等の運動器官の症状に用いられる漢方処方には麻黄剤か附子剤が含まれます。
(一部例外もあります。)

麻黄剤を含む漢方処方(越婢湯、越婢加述湯、葛根湯、ヨク苡仁湯、五積散)は体力があり、胃腸が丈夫な人に用いる場合が
多いです。
麻黄剤を含む漢方処方を胃腸虚弱、高齢者に用いる場合は胃腸障害、興奮、排尿障害等の副作用が診られる場合がありますので
注意が必要です。

附子剤を含む漢方処方(八味地黄丸、午車腎気丸、桂枝加朮附湯、真武湯、大防風湯)は虚弱で体力が余り無く、冷え症を伴う痛み
に用いる場合が多いです。

附子剤を含む漢方処方は陰証の人によく用いられます。附子は効用、効果が大きく乳幼児に対する使用は厳禁です。
若い人や冷え症を伴わない人にのぼせ、めまい等の副作用が診られる場合がありますので注意が必要です。

越婢湯には麻黄、附子の両方を含む越婢加朮附湯があり、越婢加述湯を用いる症状で、越婢加述湯を服用しても関節痛、浮腫、
口渇、悪寒が取れない場合に用います。

越婢加朮湯適応症
@ 越婢加朮湯の適応症は悪風、関節痛を伴うので太陽病的状態に見えるが、頭痛、発熱は無く、陽明病的状態の裏熱、口渇の
症状が見受けられる。証は実証〜虚証である。

A 症状は浮腫、口渇、自汗、尿量減少が見られる場合に良いでしょう。

B 本方は皮膚疾患、翼状片、疣、ポリープに用いられます。(本方をイボ、ポリープに用いる場合にはヨクイニンを加えて用います。)

C 脈診は沈脈の場合が多いです。

D この処方は麻黄の配合量が多いので妊娠中の婦人、神経過敏者、高齢者、胃腸虚弱者、心臓疾患者、腎臓疾患者の服用には
注意が必要です。

E 以上の症状から越婢加朮湯の適応症は
・腎炎、ネフローゼ、浮腫
・夜尿症 
・変形性膝関節炎、慢性関節リウマチ
・アトピー性皮膚炎 
・痛風
・眼疾患(結膜炎、涙嚢炎、翼状片(よくじょうへん)など)
・皮膚疾患(イボ、水虫、湿疹蕁、麻疹など)
に適応されます。

参考・・・本方は変形性膝関節症、関節炎などによく用いられますが、防己黄耆湯も変形性膝関節症、関節炎などによく用いられます。

越婢加述湯の証、防己黄耆湯の証の違いは
@ 越婢加述湯は実証の場合が多く、防己黄耆湯は虚証の場合が多いです。
A 越婢加述湯は身体のしまりがよい人に用います。防己黄耆湯は身体にしまりが無い、ブヨブヨとした水ぶくれ体質に用います。 
  
各生薬の解説
越婢加朮湯の基本構成は麻黄+石膏であり、麻黄と石膏の組み合わせは口渇、自汗抑制作用があります。
麻黄単独の効能は解熱、鎮咳、発汗などがあり、石膏は解熱、止渇作用があります。

大棗は鎮痛、甘草も鎮痛、ケイレンを抑える作用があり、生姜は身体を温め、気、血行促進を良くします。

朮を加えることにより越婢湯より浮腫、小便不利の改善効果が期待できます。

参考処方

実証・・・・木防己湯、大青竜湯など

中間証・・五苓散、ヨク苡仁湯、麻杏ヨク甘湯など

虚証
・・・・大防風湯、防己黄耆湯など

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